風水の人気が高まっている。そこに着目して、風水を営業や設計に取り入れる建設サービス会社やリフォーム会社、設計事務所も増えてきた。
(2006年10月1日、日経ホームビルダー)
風水の家で吉事を呼ぶ
社内研修で「色の運勢」を学ぶ
「黄色などの暖色系の色を使ったほうが、風水では運がよくなるといいますよ」
住宅会社大手の木の城たいせつ(北海道夕張郡栗山町)では、2006年4月から風水が学べる社内研修を開き、このように営業や設計に導入し始めている。
北方型風水
2006年7月には、“北方型風水”を銘打った新商品「メープル」も発売した。長年続けていたアースカラーの外観を、明るく一新させたものだ。反響は好調で、2006年8月末までに500件以上問い合わせがあった。
講演会や相談会
住宅会社の四国ダイワ(香川県高松市)社長の角本勝嗣さんは、風水をテーマとするユーザー向けの講演会と個別相談会を2年前から始めた。風水に詳しい住まいるカレッジ(大阪府泉佐野市)社長の麻生真琴さんに、講師と設計のバックアップを頼んでいる。
2件が着工、4件が契約待ち
四国ダイワではこれまでに120人以上集客し、2件が着工、4件が契約待ちの状態だ。四国ダイワと同じような形で麻生さんがサポートしている住宅会社は、30社に達している。
リフォーム
江口希之建築都市研究所(広島市)社長の江口希之さんは約10年前から独学で風水を勉強し始めた。その日の運勢など、風水関連の情報をホームページに載せている。4年ほど前から風水診断も手がけるようになり、いまでは全国から年間100件以上の診断依頼が来るほどになった。事務所の近辺から来る診断依頼客のほとんどが、リフォーム客に転じている。
家相より制約が少ない
風水の魅力として設計者から挙がるのは、プランニングの制約が家相より少ないことだ。風水も家相も古代中国から伝わった起源は同じだが、風水のほうが古く、取り扱う範囲や見方が広いので、解釈を広げやすい面がある。
鬼門の玄関に盛り塩で運気上げる
また、物や色、インテリアなどによる厄払いの方法も風水の解説書には多く示されている。角本さんは、「家相では鬼門の玄関がダメで終わってしまうが、風水なら鬼門の玄関でも清潔にして盛り塩をすれば運気が上がるといった説明ができるので、顧客の希望や使い勝手をある程度両立できる」と説明する。
顧客との関係を深める
もう一つの魅力は、顧客との関係を強めやすいことだ。
悩み
風水を気にする人は、不安や悩みを抱えていることが少なくない。そのため、通常のコミュニケーションより濃い付き合い方ができるうえ、不安や悩みの解決策を示すことによって、信頼性を高めることが可能だ。「風水の個別相談に来た顧客は、他社を掛け持ちせず、うちだけに頼んでくれる人が多い」と角本さんは証言する。
開運アドバイスも
さらに、開運の方法を伝えることで、顧客を得した気分にすることもできる。江口さんは顧客に「家づくりは大きなイベントなので縁起を担ぎましょう」と呼びかけているという。
流派によって異なる解釈
風水にはさまざまな流派があり、人によって診断方法や解釈が異なることも知っておく必要がある。実際、先の3社が取っている方法も、少しずつ違っている。
方位の扱い方
方位を例に挙げてみよう。木の城たいせつでは希望者に限り、敷地に出向いて、方位と磁力を正確に求めることにしている。木の城たいせつに風水のアドバイスをしている風水環境科学研究所(東京・港区)の松永修岳さんに習ったものだ。
炭を埋めて磁場を整える
同じ敷地内なのに方位磁針が一律に北を指さないときは、磁場が荒れていることを示しているという。そうした場合は、磁場を整える方法として炭を地面に埋めることを提案する。敷地内で磁力が強い場所は「気」が強いと判断し、大事な用途に使うこともある。
地図の北を基準にする
こうした対応を、四国ダイワと江口希之建築都市研究所は通常、行わない。 四国ダイワは公図に記載された磁北を、江口希之建築都市研究所は地図が示す北を、それぞれ基準としている。
方位に適した色や用途をふまえた設計
風水には、南、東、東南など8つの方角ごとに意味があり、適する用途や色などを示す教えがある。四国ダイワと江口希之建築都市研究所はこの方位の教えを取り入れながら設計している。
生まれ年から工期を決める
木の城たいせつはそれほど方位の教えにこだわらない。その代わり、「希望があれば、顧客の生まれ年に基づく教えをプランに盛り込む」(木の城たいせつ 情報開発部部長の上総昌世さん)。風水では、いつどちらの方向に移動するかも吉凶に大きく関係する。そのため江口さんは、顧客の生まれ年から望ましい引っ越し日を求めて工期を決めることを通常の方法としている。
知識がないと振り回される
風水を営業手段にしていなくても、知識として身につけておくことは必須だと考えている建設会社もいる。井上建築工業(栃木県小山市)社長の井上修一さんだ。
建築学と迷信
風水の教えには、建築学的な見知からも理にかなっている内容と、単なる迷信に過ぎない内容が混在している。風水の知識を持つ建築の専門家でないと、その区別がつかないと、井上さんは考えている。「教えの根拠を示しながら説明すれば、大抵の顧客はこちらの考え方に従う。知識がないから振り回される」と井上さんは話す。
事前に確認
井上さんは、設計を始める前に風水の対応が必要かを顧客に確認している。設計が終わってから「やっぱり風水が気になるので、プランを変えてくれ」といわれるリスクを避けるためだ。
ブームから社会現象に
風水に関心を持つ人は変わった顧客だろう。そんなイメージを抱きがちだが、そうとは限らないようだ。
一時の
「特別な人という印象はないし、年齢層も幅広い。風水はいまや特殊ニーズではなく一般的なニーズだ」と江口さんは話す。だとすると、風水は一時のブームではなく、不安やストレスから癒しや救いを求めている一つの社会現象といえるのかもしれない。
風水建築やリフォームのポイント
- 風水は集客手段になるだけでなく、信頼性や顧客満足度の向上に貢献する。
- 複数の流派があり、書籍やインターネットに情報がたくさん出ているので、いろいろ読んで幅広い知識を身につけよう。
- 風水は特殊なニーズではない。癒しや救いを求める社会現象ともいえそうだ。
風水環境科学研究所
2006年7月に発売した新商品「メープル」では、明るい色彩が運をよくするという、風水環境科学研究所の松永修岳さんの考えに基づき、クリーム色やオレンジ色のサイディング、金色のサッシなどを標準仕様に加えた。“気”の流れをよくするため、吹抜けや暖房設備の位置なども見直している。社員で対応できないほど風水に詳しい顧客が来た場合は、松永さんに協力を求める。
ユーザー向け通信
四国ダイワの角本さんは、講演に来たユーザーとの関係を継続させるため、風水コラムつきの手作り通信を定期的に送っている。
風水の本
江口希之建築都市研究所の江口さんは、電話やメールでも相談を受ける。江口さんは特定の流派に属さず独学し、複数の本に共通して書かれている内容を取り入れている。2006年9月中旬に風水に関する著書「100%幸運はやってくる 建築家が見つけた風水家づくり」を週刊住宅新聞社から発行。
井上建築工業
井上建築工業の井上さんは先代社長や書物などから風水を学んだ。